劣等遊民

千の旬に会うために。

親愛、リバプールFC

 リバプールFCがたいへんに魅力的すぎる。

 僕がサッカーを見始めた頃は「キャプテン」ジェラードが君臨し、トーレススアレスといったストライカーが印象的なゴールを決めてファンを熱狂させていた。彼らが去ってしばらくすると、クロップがドルトムントからやってきた。新たな熱狂が始まった。
 加入当初こそ前任者(ロジャース)とのスタイルの差に選手が戸惑い、ちぐはぐなプレーもあったがタイトル獲得に迫った。2年目以降は代名詞であるゲーゲン・プレスが浸透したほか戦力の整理も進み、クロップが目指すスタイルが徐々に具現化されてきた。コウチーニョが13ゴールを記録するなど、エースとして台頭した。

 今季は高速3トップのカウンターが炸裂し、強豪に一泡吹かせる痛快なフットボールを披露している。冬にコウチーニョが移籍したがチーム力は落ちるどころか、結束力がさらに高まったように見える。
 色褪せることがないのは、今季プレミアで首位独走のマンチェスター・シティを撃破したチャンピオンズリーグの一戦。ベスト8で同国対決となったが、1stレグで前半のうちに3点のリードを奪い、そのまま見事に逃げ切った。アウェイでの2ndレグでも勝利を収め、今季を象徴する見事な戦いぶりだった。
 試合内容だけでなく、個々のキャラクターも面白い。指揮官クロップはモチベーターにして激情家。熱くなりすぎて退場処分になることも。それが却ってスタジアムを団結させ逆転勝利というのもあるから、かなりの戦略家でもありそう。情熱は愛ゆえであり、彼と仕事をした選手たちはそれぞれに成長を遂げる。率直かつユーモアのある話しぶりから、記者とも良い関係を築ける。
 ヘンダーソンはジェラードの後継者として厳しい重圧にさらされたが、クロップの下で自分らしいスタイルを確立できたように思える。中盤の底でバランスをとり、チャンスと見るや精度の高いサイドチェンジで一気に流れを呼び込む存在。堂々とプレーできるのは、指揮官からの信頼をひしと感じているからだろう。
 前線のアタッカーも活きが良い。攻撃を引っ張るサラーはローマ時代から一皮剥け、様々なパターンから得点できるスコアラーへと成長した。マネもシーズン当初は窮屈そうに見えたものの、細かいタッチとストライドとを使い分けながら相手ディフェンスを混乱に陥れている。

 なかでも僕の一押しはロベルト・フィルミーノだ。「ボビー」の愛称で親しまれている彼は、ホッフェンハイム時代からトリッキーさと得点力を見せつけていたが、レッズ移籍後クロップの下で「偽9番」としてのプレーをマスターし、チームのキープレーヤーとして躍動している。
 こと走力に関しては、サラーやマネほど際立っているわけではない。判断の速さとビジョン、相手を欺く遊び心で先手を取ってアタッカーにスペースを与える。アーセナルから移籍してきたチェンバレンの覚醒も、ボビー抜きでは語りえない。数年前のミランイブラヒモビッチの恩恵を受け、ノチェリーノがゴールを量産していたことが思い出される。
 また前線からのプレッシングを肝とするクロップのサッカーにおいて、彼の献身的な走りは不可欠なものだ。攻守の切り替えの早さは特筆もので彼が反撃の旗手となり、周囲が連動して奪いに行く。チーム全体を一つの生き物とすれば、フィルミーノこそが頭脳である。
 現在プレミアリーグではトッテナムのハリー・ケインが最高峰のストライカーとみなされているが、フィルミーノもFWとしての総合力では劣っていない。チームメイトの力を引き出し、得点力を引き上げてくれる。何よりもサッカーを心ゆくまで楽しむ姿勢が伝わってきて、ファンは彼の虜となる。

 チャンピオンズリーグはローマとのセミファイナル。未知数の相手ではあるがサラーの古巣への〈恩返し〉に期待したい。プレミアでも2位を狙える位置につけている。ライバルであるマンチェスター・ユナイテッドを上回り、来季以降への弾みをつけたい。シーズンが佳境を迎え、クロップ率いるレッズの戦士はどんな景色を見ることになるのだろうか。