劣等遊民

千の旬に会うために。

レモングラスの夕刻に

青年は悩んでいた。
彼はくよくよする性分だ。1年前に祖母を亡くし、その時には泣かなかったが後から後から胸はつかえ、3ヶ月後には夢に見るまでになった。夢で会う祖母は毎回謎のお告げ? を下し、そそくさと今の居所に戻るのだ。
そんなことさえあったから、親族が立ち直った段になっても、いまだに彼はくよくよしていた。

くよくよするのは決断力の無さなのだろうか。彼は今、乗り換え待ちの売店で買うべきものを決めかねていた。
特急列車はじきやってくる。すでに塞がった両手には紙袋があり、衝動的に買ってしまった饅頭の類がぎっしり鎮座している。
5畳ばかりの酒と土産と雑貨、それから3人のマダムを詰め込んだ空間で、彼は途方に暮れる。
日光の夜、と言うと紛らわしいが栃木の暗さと己の判断力の昏さを比べてしまうのだった。退屈そうな視線が刺さった。

そこに風穴。
スライド式のドアをばたんと、さほど防寒対策もせず平然とした高校生が開け放つ。身震いする青年を気にもとめず、ぶっきらぼうに「ただいま」と言い紅茶を求める。
高校生の手つきは慣れたもの。然るべき場所に腕を運び、なめらかな弧でレジに置く。青年は少し息を呑む。
マダムらの顔が、ぱぁと綻ぶ。みんなお母さんである。豆電球からLEDに、狭い店内が明るくなった。
この3人は連携も何もない。めいめいに合計額を計算したり、袋詰めの仕方で揉める。そんなもので非効率極まりない。

しかしそれにも慣れているのだろう。高校生は店を出るまで一言とわずかな所作で、すっかり空気を変えてしまった。

青年は、ラスクとレモン牛乳ラングドシャを買い特急に乗った。